文具店

昭和30年代。
小学校の近くには必ずと言っていいほど文具店が一軒はあった。 そこの小学校の教材の発注先であるとともに、そこに通う児童たちの一種の溜まり場でもあった。
もちろん学校の授業で使う文具も購入するのであるが、それと同時にアイディアしだいで玩具になりそうなもの(磁石や消しゴムなど)やちょっとした駄菓子も売っているのが一般的である。
いわば文具店は子供たちにとっては魅力的なものがたくさんある店でもあった。
現代では出来合いの玩具が氾濫していて、金さえ出せば楽しい玩具を買うことが出来る。
けれど昭和30年代では玩具はまだまだ高価なものであり、せいぜい駄菓子屋で売っている駄玩具程度であった。
それも買えない子供は、身の回りにあるものを上手に使ってちょっとした遊び道具を作るのであった。もちろん子供なので立派なものとは言えないけれどそこそこ楽しめるものであった。
一例を挙げると、割り箸を束ねて輪ゴムをつけてピストル(引き金を引くと輪ゴムが飛ぶ)にして遊ぶ、などがある。
また磁石で金属を引き寄せたり下敷きをこすって頭に乗せると髪の毛が立つなどといった単純な遊びもある。これらは科学の基本の要素も含まれている。
もっともこのことから科学の知識を得ようとする人は少ないが、ちょっとした不思議を発見しそれをきっかけに学問の道に進む人もいたかもしれない。
そのように昔の子供は知恵とアイディアで無限の遊びを生むことが出来たのである。
また当時の男の子は、たいていの場合小さいナイフを持っていて、それを使って鉛筆を削るほか、身近な道具をナイフを使って色々な遊び道具にすることが良く行われていた。

昭和34年。小学5年生の謙太君も文具店で買った「肥後守(ひごのかみ)」と言われる折込式の小さいナイフをいつも筆箱の中に入れていた。
他の子供と同様に鉛筆を削ったりするほか、木の枝を削ってパチンコにしたり弓矢にするなど簡易な遊び道具も作っていた。
もっとも弓矢とかは人に向かって使うと危険なことになる代物でもある。そのことも遊びを通してや親や先生の注意によって少しずつ覚えていった。
もちろん肥後守を人に向かって見せることも危険なことであると認識しているのでそのようなことは絶対にしなかった。
このことは他の道具についても同様で、危ない使い方をしているとすぐに怒られたものであった。謙太も文具店で買った虫眼鏡で黒い紙を燃やしたこともあるし、消しゴムを小さく切って人に向けて投げたこともある。
これらは大事にいたらなくて済んだが少し間違えると事故につながる可能性があるということを身をもって知ったのである。
まだこの頃は危険につながる行為もある程度は体験して身につくことが出来た。

けど翌年あたりから事情が変わり始めた。
謙太君がいつも使っている肥後守の切れが悪くなったので学校の近所の文具店に買いに行った。
けど文具店には去年まで置いてあった肥後守が置いていなかったのである。
店の人に聞いてみた。すると店の人はこう答えた。
「少し前にナイフを持った子供が転んで怪我をしたのがきっかけで、『子供に刃物を持たせてはいけない』ということがPTAで決まったので子供にナイフ類を売ることをやめました。」
謙太にとっては不服であった。けど「決まったことだから仕方ない。」と思いしかたなく店を後にした。

昭和35年に起きた少年のナイフによる殺傷事件をきっかけに全国的に「青少年にはナイフを持たせない」と言う運動が行われた。
そのため青少年には関係ない小学生の男の子からも「危ない」という理由だけでナイフやかみそり類も取り上げてしまったのである。
幸い子供によるナイフの事故はこの運動によってなくなったのであるが、手先が不器用な子供を作ってしまったということも事実である。
またそれと同時に子供の自由に物を作る知恵も奪ってしまったのかもしれない。「安全」のためとはいえ少し甘やかしすぎてしまったのかもしれない。

最近はスーパーや100円ショップで文具が買える時代になってしまった。
学校の近くに文具店が少なくなったような気がする。これも時代の流れなのだろうか・・・



【完】



参考資料:夕焼けの詩(小学館)
(2006/03/20)


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K.S様より、【BELUGA】壱萬打&弐周年記念小説【文具店】

わぁ〜い!初頂戴小説でございます!やっぱり、一応小説サイトだもんね!? 頂き物に小説ってなんだか嬉しい♪


あぁ〜そうなんだ!昔の子供は常にナイフを常備してたんですね!?
ナイフで鉛筆を削った事は確かにあります。ですが、それも小学校3年くらいかな?図工の授業でやったと思います。その一度だけであとは鉛筆削りで済ませてます。

玩具だって作った覚えないですもん;強いて言えば花冠?男の子でY字のパチンコを作ってた子はいましたけど、危ないからって止めさせられていた気がします。
今は何でも「危ないから」「人の迷惑だから」などの理由で取り上げられる玩具は数知れず………

文具店は私も小学校の頃に良く行きました。なんかノート、消しゴム、鉛筆、折り紙、絵の具、筆箱等々…………見ているだけで楽しい時間を頂いたお店です♪でも今ではちょっとしたスーパーで買えてしまうしコンビニでも売っている物。何だか文具店の有り難みが薄れていますね。言われてみると。


時代を感じる、K.Sさんの昭和の贈り物♪ありがとうございました★彡



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